春はおちゃらけ。人の顔や名前をぱっと見た、聞いただけで完璧に覚えることは難しい。まずはおちゃらけ。あるいは変な装飾。初めての人に覚えてもらうこと、とにかく目立つこと。ただし後からつらくならない手段でやらなければならない。
夏はお誘い。二人以上で過ごすこと。何をするでもない、夜に車でくりだして、すこし涼しくなった草っぱらで蚊を叩きながら幼き日の思い出を語らうと、大人になってもまだまだみんな同じであることがわかる。ステレオタイプなことをするといい。花火をやるといい。コンビニでアイスを買うといい。それがどういうものかわからなくても、たまらなく青春という感じがする。その儚さが尊い。夏は短い。
秋は他人の頷き。いつから秋が始まり、いつで秋が終わるのか、秋は本当にあるのか。儚さに感慨がない。だからこそ切ない。秋には何か足りない。誰かにそういう話をして、そうだねと言ってくれる人がいるということ。それが望ましいということ。
冬は連絡。せっかくの時代だから、あらゆる方法で連絡を取ればよい。温かい部屋で、家族とも一緒で、それでも他の誰かと連絡が取れる。挨拶をすればよい。元気であることを確認出来ればよい。
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うつくしきもの。ピンク色の小さなお菓子。色は味。味は色。ピンク色のかわいらしい味わい。大人なのにピンク色を着る女の人、あるいは子供なのに暗い色を着る女の子、どうしてそれを選んだのだろうと想像する時、自分と逆のものへの憧れを感じて、それが堪らなくかわいらしい。
かわいらしさを褒める女の人、その際の声の使い方、男には出せない域の高さ。耳の奥を軽く触る心地良さ。
くよくよする大人。特に目上の人。そんなこと気にしなくてもいいのにという、こちらが上手になったような気持ちになる時に起こる、庇護欲に近い思い。
反省をする人。欠点に気付いて、改善したいと悩む人。頑張れという気持ちにさせる人。
すさまじきもの。小便器に痰を吐く人。叫ぶ声で感動を表現する女。依頼をする際「何々して頂きたく。」で文章を止める人。公共の施設の使い方がわからない子供と、それを叱らない大人。
同族嫌悪をしていることに気付いていない人、そのこと自体ではなく、自覚なく自分と同じ性質に対して疎ましい気持ちを持っていることを人に言う人。あなたもそうだよと、言わない優しさに気付かないこと。
これは誰も気付いていないはずという疑問が、既に他人の手によって解消されていることがわかること。自分の考えは二番目以下であるということに気付いてしまった時。
あてなるもの。持ち物の少ない大人。装飾の少ない家具。飼い主の後ろを歩く犬。他人の出来を気にかけてあげる人。5分前の予定に、10分の余裕を見る人、急がない人、焦らない人。緊張のない関係。自分にある知識をもっていない人を馬鹿にしないこと。
声を荒げないこと、すぐに怒らないこと、同行人の歩幅を考えること、場のことがわかること、全てに対して余裕を感じられることに品がある。身近なことでよい、部屋が綺麗であること、洗濯物を溜めないこと、ゴミを出すこと。穏やかな気持ちで行うこと。
うれしきもの。自分がいないところで、自分の話をしたという報告を受けること。自分がいないところにも自分がいること。他人の中に自分がいること。覚えておいて貰えること。そういう関係の人がいるということ。