2018/08/11

最後の花火に今年もなった件(平成最後の夏の思い出②)

会社の3つ後輩にOという女の子がおり、彼女が入社した当時僕が教育係を務めていたということもあって、よく彼女は僕に懐いてくれた。僕も彼女を可愛がっていたし、彼女が成功すれば僕も嬉しく思ったがそれももう過去の話、Oもすっかり新たに入社した新入社員の先輩として厳しく彼らを指導する立場である。そんな彼女が突然今年の夏は思い切り楽しみたい!としてわざわざパワーポイントで作った夏休みのしおりを送り付けてきた、公園で水鉄砲、たこ焼きパーティ、たくさんお酒も飲んで、花火で締める。そういう一日を過ごしたいとして会社の若手の面々に元気のよい連絡を送り付けているようで、僕にもその連絡が、僕は必須参加だから絶対に来てくださいなどと言う触れ込み付きで送られてきた。まあそういう誘いはありがたいものだし、嫌われているよりよっぽどましである。彼女は妹と同い年であることもあって何だか優しく見守ってあげたい存在でもある、決してやさしくはない社会で頑張っている彼女が元気にバカげた遊びに興じるような気力があるのであればそれは嬉しいことであった。

当日集まったのは男3人女3人というメンバーであったがその色気のないことと言ったらない。慣れ親しんだ同僚たち、中でも僕は上から数えて2番目に先輩という立場であったが、全員が対等の友だちのようであった。
集まったのは正午ごろ、事前にOがアマゾンで注文しておいた水鉄砲を構えて公園に向かう。世田谷区民が運動やバーベキューやレクリエーションやらによって過ごす大き目の公園があって、グーとパーでチームを分けた結果うまいこと男子チームと女子チーム。じゃんけんで奪い合った水鉄砲を各々が構えたら、頭にゴムを巻いて、そこに縁日の金魚すくいで金魚をすくうための半紙がついた道具をくくりつける。半紙を水で破られたら負けらしい、Oが決めたルールである。
Oが吹いた笛を合図に皆が一斉に公園に散らばる。女子チームはあえて全員が固まり、一人の姫役を守る作戦に出た様子。チームの全員の金魚すくいに穴が開いてしまえば負けである。負けたものはアイスをおごらなければならない。男子チームは特別まとまりなく自由に公園を走り回る、この日はまさに酷暑と言わんばかりの炎天下であった。公園には迷路の形をしたアスレチックや滑り台、小高い丘の形をした地形により、水鉄砲の射程距離から外れることもしばしば、誰かが特攻しなければ膠着状態が続くばかりである。
ここでしびれを切らした男子チーム長男、数年前に退社したもののまだ頻繁に当社メンバーと交友のある一番の先輩Iが女子チームの群れに突っ込む、Iが獲得した水鉄砲は背負った水タンクからチューブでつながったハンドガン、玉の量なら群を抜いている。こともあろうにIはハンドガンを無視してタンクごと特攻し、まさに一死千殺、タンクから漏れる水を振りかけて全員を脱落させる作戦に出たがこれは案の定と言うべきか返り討ちである。残る男子チーム二人も応戦するが、人数の利によりあえなく半紙を破られてしまう。僕は先日28歳になったのだが、この歳になって水鉄砲で水をかけあって大人同士で遊ぶなんて、しかもこの炎天下の中、お母さんと一緒に遊びにきた子供たちからの不思議そうな視線を浴びながら、なんて、冷静になったら負けである、太陽の下でかじったスイカバーはとてもおいしく感じた。

近くにIが暮らす家があったのでIの部屋でたこ焼きを作って食べた。男子はみな先輩、女子が後輩ばかりということもあってか、女子たちがせっせとたこ焼きを作る。この後はみんなで花火をしますからね!と意気込むOは既にこれまたアマゾンで仕入れた花火を構えている。主催であるOが楽しんでいるのを見て、元気そうでよかったななんて、一瞬実家の妹の姿がよぎる。妹と同い年の女の子と水鉄砲で遊ぶ僕、冷静に考えてはいけないことである。

日が暮れて、みんなで花火を持ってIの家を出るころにはみな酒が入っているので少々気分も高揚しており、Oはウイスキーのビンに口をつけていたのでこれはまずいなと思いながらもまあ夏だしなということで僕もそのビンをもらってそのまま飲んだりした。昼間水鉄砲をして遊んだ公園に人の姿はない。きちんと始末をすれば花火をしても良いとのことだそうで、一人タバコを吸うやつがいたので彼が火種になり次々花火に火をつける。Oは花火を口にくわえる、僕にもそうするよう言うので、僕もくわえてみる。口から噴き出るようにして火花が散るのを見ながら、何となく夏ってこういうものなんだな、なんて、つまらない感想が廻った。何か理由があるわけではなくて、夏だから、するのだ。僕が主役だったらきっとそんなことは企画しないけど、誰かが言うならきっとそうなんだろうなあなんて、そういう時僕は人に恵まれているなと思う。酒が入ってめちゃくちゃに騒ぐOの姿を見ながら、こういうやつが僕と仲良くしてくれてありがたいななんて気持ちがあった。
最後にOはフジファブリックの若者のすべてという曲を流す、僕はフジファブリックのファンである。夏の終わりを想起させる抒情的な歌詞の曲で、特にボーカルが若くして亡くなっていることもあり、僕はこれを聞くととても切ない気持ちになってしまう、それをOは知っていて、そして酒に酔った僕は大げさに感傷的なポーズをとりながら、花火の火を見つめた。そういえば明日、高校のラグビー部の連中と昼から酒を飲む予定があったななんて思い出して、そういう時やっぱり、みんなが仲良くしてくれて嬉しいななんて思ってしまうのが僕という男である。