2018/08/11

新宿で一番涼しいところで待っている件(平成最後の夏の思い出③)

二日酔いが痛む頭をもたげて新宿に向かう。自宅から30分ほどである。高校時代に一緒にラグビー部で過ごした連中と昼から酒を飲む予定がある。前日に会社の同僚たちと公園で水鉄砲をして遊んだり派手に酒を飲んで花火をしたりして夜中まで遊んでいたので、翌日月曜日の業務に響かなければ良いななどと思いながら電車に揺られ、そうは言ってもちょっぴり久々である。再会を喜ぶ気持ちももちろんある。待ち合わせは新宿南口。

最初に到着したのは僕だった。連日続く酷暑に、待ち合わせ場所にたどり着くだけで汗だくである。どこか涼しい場所はないか探したところ、商業施設の入口階段前、人がわんさかたかっている一角を発見し、近寄ってみると人が集まっている理由も歴然。建物の入り口から冷房の冷気が漏れ出して、あたり一面別世界の様相を呈していた。しばらくここで待つことにしよう、いたずらに携帯をいじると待ち合わせている面々から連絡があり、今新宿で一番涼しい場所にいるから来いなどと言って僕はその場にずっしりと根を下ろした。南口と決めていたこともあって、不思議と出会えるものである。あえて場所は言わない、考えるな感じるんだなどと伝えて捜索を促す、一番涼しい場所ってここかよ!などと言って現れた同期のKがキョロキョロと僕を探している様を遠くから見た時には学生当時のふざけあって遊んだ思い出が呼び起こされて思わず笑いが漏れた。

集まったのは正午ごろだったので、その時間から開いている酒場を経由して、おやつの時間くらいからジンギスカンを食べに行こうという予定だった。僕含め集まったのはKとSの三人。三人集まると今でも学生当時のきつかった練習、顧問の先生の口癖、他の同期のモノマネ、話すことなんて同じである。唯一違うとすれば、お互いの仕事の話と、自分が持つ家庭の話。これまた全く違う業種に勤める三人であるので、それぞれどんな仕事をしていて、どんなつらさがあって、どんなことに悩んでいるとか、酒の場で学生時代の友人と話す話題と言えば大体そんなことである。Sは長い学生時代を経て今年から社会人になったので、結局どのような経緯でもってどのような会社に収まることになったのかなんて、そんな話もしていたけれど、それよりもその日盛り上がったのは、結婚するだのしないだの。Kは既婚だったので彼が普段どんな暮らしをしているかについて、ちょっと茶化しながら話を聞いた。Kはタバコを吸うが嫁はそれを嫌がっているらしい、吸ったら離婚なんて言われるくらいとのこと。結婚祝いにKは電子タバコのアイコスを友人からもらい、現物が吸えないなら仕方ないとこれで我慢をしていたところ、それの愛用も嫁にばれてしまい、目の前でゴミ箱に捨てるよう命ぜられ、泣く泣く処分したという悲しいエピソードは僕らの間では絶対に笑える大ネタである。その話を聞いてからKの嫁は鬼嫁というネタが僕らの間で定着する、ちょっとジンギスカンをこぼそうとするものならばKの嫁に怒られるぞ!なんて言ってげらげら笑うといった具合である。本人には聞かせられまい。

話していると気づくのは、他の友人たちと一緒にいる時よりも口調が粗雑になっているということ。僕の人生で体育会系だったのは高校の三年間だけであるが、体育会において、ことラグビーでは、対戦相手との身体的な接触が容認されるルールであることから、目視だけではプレーの進行が追えないことあよくあるので、お互い声を出し合って自分がここにいる、どんなプレーを要求しているということを声で主張するということが定石である。不思議と声のかけ方は端的に、コミュニケーションは雑な言葉になっていく。こんなに荒い口調で接する友人は他にいない。
さんざんKの嫁をからかい倒して店を出ると夕方前くらい。Kの嫁は前日から実家に戻っているとのことだったが今日は嫁が帰ってくる日、必ず自分が先に帰り、おかえりと言って嫁を迎えなければいけないとのこと。年下の嫁にすっかり敷かれているKのことを引き続き笑ってやるのは体育会系の悪い癖である。次はラグビーの試合の観戦に行こう、俺がチケットを取るよなどとKが言うので、これまた楽しみが一つ増えたなあと思って自宅にたどり着いたのは18時過ぎごろ。酔いを醒まして翌日会社に向かうにはちょうど良い時刻である。