僕が初めてカラオケに行ったのは確か大学にあがってからだったと思う。それまで僕はいやいや人前で歌うとか正直ちょっとないわと思っていて、それは歌に自信がないとかそういうのではなくて単純に恥ずかしいからだった。
という時代があったのが嘘のように今では結構頻繁にカラオケに行くようになった。カラオケなんてものは大体仲の良い友達としか一緒に行かないということもあるけれど、今では中々楽しみにさえ思える。
先日中学校の同級生二人と一緒にカラオケに行った。実はその前日にも高校の同級生とカラオケに行った後お酒を飲んで深夜に帰宅という若い遊び方をしていたのでかなりくたくたであったが、それでもカラオケは楽しい。夜の九時過ぎに入って、明けて翌日の三時頃に店を出ることになる。計三人で入ったのだが、その内一人はカラオケに来ても一切歌わずにただ聞いているだけという珍しい奴だったので、実質歌うのは僕ともう一人の計二人だけであった。
僕は色々テクニカルなことは出来ないので、もちろんマイクのエコーだのなんだのの設定は出来ないし、点数を計算するしないの設定も出来ないので、そのあたりは一緒に行った友達に全て任せることになる。一緒に行った人がそういう設定をする人ならそのように、しない人ならそのようになる。その日はそういうのを特に凝ってしっかりとやるタイプの友達と一緒だったので、僕はもうただその通りの設定で歌を歌うことになった。
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全く気にしていなかったのだが、何曲か歌っていると曲の終わりと点数発表の間くらいの数秒間にこの一曲を歌ったことで消費したカロリーが表示されることに気付いた。それは大体7から9キロカロリーくらいのものなのだが、たまに9.7くらいの数字が出ることがあり、それを見ると「おしいな、もうちょっとで二ケタなのに」と思うようになった。
すると友人が割と頻繁に10とか11とかそのような数字を出していることに気付く。確かに彼の方がカロリーを消費しそうな歌い方をしているというか、自分が上手く出せる一番高い音で気分良さそうに歌っているように思える。僕は自分が本当に歌いやすい高さの歌はどういうものなのかいまいちわかっていなくて、そもそも歌を歌うという行為に関して、最初の一曲よりも五曲目くらいの方が喉が開いているというか、温まっている感じがなんとなくあるので、そうなると若干高い歌の方が歌いやすいということもあるし、なんだかそういう色々で何を歌えばギリギリ出せる高さの心地良い必死さを味わえるのかよくわからないでいた。何だかもう理屈じゃない、歌を歌うのは難しい。
というわけで僕はいくらやっても二ケタカロリーに達することが出来ない。二人で回しているので自分の番はすぐやってくるが、何度歌っても二ケタに届かない。
大体カラオケ機のカロリー計算は何が基準になっているのかわからない。でも何となくしっとりとした歌よりも激しい歌の方が消費が大きいのはわかる。なので僕はなるべく若くて早くて激しい歌を入れて、過剰なまでに大きな声を出して歌っていたのだが、それでもせいぜい9に届くか届かないかくらい。消費カロリーの基準は声量じゃないのか? 大きな声を出せばその分消費しているんじゃないのか? そもそもマイク一本から消費カロリーを算出するなんて無理なんじゃないか? と色々なことを考えたが、それでも悔しいものは悔しい。現に友人は二ケタを出せているのだ。不可能な数字じゃないはずだ。
「悔しい!僕も二ケタカロリーいきたいよ!」
と友人らにあたり散らす。別にカロリー消費のためにカラオケをやっている訳ではないが、僕がこんなに必死なのにどうしてこのカラオケ機は理解してくれないのか。
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僕が消費カロリーに注目して歌っていることに気付くと、友人もそういう選曲を始める。彼はかなりの頻度で二ケタを出してくるので僕はその度にいいなあいいなあと羨ましがった。
彼が言うには「声を張り上げて歌えるような曲がいい」とのこと。彼の提案でレミオロメンの「粉雪」という歌が良いということになった。ためしに彼が歌ってみると、サビの一番の高音部でかなりの必死さが伝わってくる声量を感じる。ああこれは二ケタだろうと思っているとやはりそのようになる。しかしながら僕が歌ってみると、何だか自分の持っている声の高さがその歌の高さに合わないのか、サビに入る前の部分は音が低すぎて上手く歌えず、サビに入ったらそこまで自分の持っている高い声を出さなくても歌えてしまうという結果になった。
以前から彼と僕とは図のような関係にあるのではないかと僕は思っている。ピンクの線が、仮にレミオロメンの「粉雪」を歌う為に使う音の一番高いところと一番低いところを示しているとする。この領域にある高さの音が全て発声できるのならばその歌がうまく歌えるということになる。
そして緑が友人、青が僕の歌える高さの領域(音域?)を示したものだとする。友人と僕とで、歌える高さの領域の大きさに違いはなかったとしても、最高音部と最低音部のラインには絶対に差があるはずで、友人は「粉雪」の最低音部が自分の音域に入っているから歌えるし、最高音部は自分の音域ギリギリだから気持ち良く歌える、僕は「粉雪」の最低音部が自分の音域の外だから上手く歌えないし、最高音部が自分の音域の中途半端なところにあるからあまり頑張って歌うことが出来ない。この図は僕がとても高い音を出せるみたいに描いてあるがこれはあくまでこの「差」の説明をしたいが為の過剰な表現である。まあとりあえずそのようなことになっているのではないかと思うのだが真相はどうなのだろうか。
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という感じで頑張って歌っていたのだがどうにもらちが明かない。そしてもうこれはどうにもたまらんということで勝負をかけたのが銀杏BOYZの「駆け抜けて性春」という歌だった。高校の時によく聴いていたが今では若すぎて耳が疲れるような激しい歌だ。これを僕はもう力の限り、歌うというよりも叫ぶに近いような具合で汗まみれになって歌ったところこれがなんと10.1キロカロリー、僕は飛び跳ねて喜んだのだがしかしながらここまで頑張ってギリギリ超えるくらいのラインなのかと思うと僕の何がそこまで悪いのか不思議に思えてくる。その後友人は11キロカロリー越えを悠々と出して見せたので僕はもうすっかりその後の挑戦を諦めてしまった。午前二時ごろのことである。
